早稲田大学男子ソフトボール部の冬の名物詩「食事トレーニング」はご存じだろうか。「食事トレーニング」は体重の増加や普段からの食事量増加を目的として、3年ほど前から始まったものである。特に、体の小さい部員や筋力アップが必要な部員を対象として冬の間に数回ほど食事会が開催されている。「食べられない」は理由にならない。そこにご飯がある限り、食べ続ける。もはやこれは食事ではなく、“戦い”だ。そんな「食事トレーニング」について、語ってみたいと思う。

 

“食べる力”が競技力を変える
黙々と食べ続ける岡田・櫻井

競技力とは、筋力やスピードだけではない。それらを支える体づくりが必要であり、その根本にあるのが食事だ。強くスイングするためには筋力がいる。速く走るには、脚力と全身を支える体幹がいる。強い球を投げるためには肩だけではなく、下半身から伝わるエネルギーが必要になる。それらに必要なことはすべて“食べる”ことが基礎になっている。十分な栄養を補給することで初めてグラウンドで戦うことができるようになる。特にオフシーズンは、春のリーグ戦優勝そしてインカレ優勝にむけて体を作る重要な時期。この時期にどれだけ自分の体を強くすることができるかが春以降のパフォーマンスを左右する。だからこそ、食べる。食べ続ける。それが早稲田ソフトボールの流儀である。

これが早稲田流“食トレ”

2025年11月16日には今年初となる“食トレ”が開催された。場所は大学からほど近いしゃぶしゃぶ屋。扉を開けた瞬間、湯気と肉の香りが一気に押し寄せた。テーブルに並ぶのは、山盛りの白米やお肉、寿司にカレー。普段なら“最高のご馳走”と思える光景が、この日

ばかりは“闘う相手”に見えた。参加したのは下級生や体づくりを必要とする上級生たち。開始の合図とともに勢いよく箸が動き出す。序盤はまだ余裕があり、「これくらいならまだいける」「ほら、ペース落ちてるぞ」などと声を掛け合う。しかし、時間が経つにつれて徐々に口数は減り、箸の進むスピードも落ちていく。監督やコーチから注がれたご飯も直視できない。それでも、誰も食べるのをやめない。やめられない。やがて、顔から表情がなくなり、満腹を超えても皿の上にはご飯がある。やがて、自分の限界を超えた選手たちは「それお前の飯だろ」「いやいや、そっちの飯だろ!」という小さな喧嘩が仲間同士でも起きる。まさに、この緊張感こそ食トレの本当の姿だ。誰も食トレから逃げない。目の前の皿と、自分の限界と向き合い続けるのである。

終盤、残っている皿の前から現実逃避をし始める

終盤では、テーブルの空気は明らかに序盤とは違っており、目の前にある皿をじっと見つめ、ゆっくりと箸で肉を口の中に運んでいく。ようやく、食トレが終わるとしんどさと一緒に達成感を感じる。普段の食事とは全く違う、自分の限界と向き合う時間。食べ終わってから自分がどれほど頑張ったのかが、実感として込み上げてくるのだ。

 

食べることで強くなる

食トレの後には体重測定を行う。自分がどれだけ食べられたか、自分自身の限界を知ることで日頃の食事量の見直しを行う。ただ食べるトレーニングなのではなく、食べる力を鍛えるトレーニングとして成り立っている。そして、この食トレで得た気づきや食べる感覚を日常の食生活に持ち帰ることこそが真の目的である。食事は一瞬のイベントではなく、毎日の積み重ねであり、積み上げたものが翌春のプレーとして現れる。「食事もトレーニングの一環」という意識が芽生えたとき、食べる行為は義務ではなく、“自己成長の手段”へと変わる。この冬の「食事トレーニング」を乗り越えた先に芽生えるのは、自身の限界と戦った“強さ”と春のグラウンドで戦うための“覚悟”だと思う。

*コメント(前田陽俊・スポ科1年)
所沢高校出身、内外野守れるユーティリティプレイヤーとしてチームに貢献している

チームの中で自分を含めた体重の軽いメンバー6人が参加しました。ソフトボールのパフォーマンスを向上させるためにはウエイトというのがすごく重要になってくるのでとても良い機会に参加させていただきました。自分は元々食べることが得意ではないので2時間食べ続けることはとても大変でした。自分の限界値を知ることができたいい経験となり、これから先も自分の限界値を伸ばし体重を増やしていく新たなきっかけにもつながりました。

体重は4kg増加し、後日の試合では1番として打線を牽引した